上昇気流
パラグライダーはエンジンがありませんので、できることは滑空だけです。
パラグライダーで、飛び立った地点(テイクオフ)よりも高い高度を獲得したい場合は、上昇気流を見つけ、その上昇気流の中を滑空して上昇していく必要があります。
上昇気流は発生の原因によって、以下の4つがあります。
- 斜面(リッジ)上昇風
山などの斜面地形にぶつかった風が、斜面に沿って駆け上がる上昇気流。 - サーマル(熱上昇気流)
日射により温められた地表が周囲の空気を温め、膨張して軽くなった空気の塊が浮力で上がっていく上昇気流。
円筒状になっていて、その中をくるくる旋回して上昇していきます。
雲(積雲)がサーマル発生の目印になることがあります。 - コンバージェンス(収束風)
異なる方向からの風同士がぶつかり(収束して)、上以外に行き場を失った空気が押し上げられて発生する上昇気流。
雲(積雲)がコンバージェンスが発生している目印になることがあります。 - 山岳波(Mountain Wave)
強風が山脈を越えた際、風下側に大気の巨大なうねりが生じることで起こる大規模な上昇気流。
山脈の場合は波状雲、富士山のような独立峰の場合はレンズ雲が、山岳波の発生の目印になる場合があります。

パラグライダー飛行での上昇は、まず山腹から離陸後に斜面上昇風を用いて滑空(リッジソアリング)し、ある程度高度を稼いだあと、山から離れてサーマルかコンバージェンスを用いてさらに上昇するという流れになります。
山岳波は、大きな山脈の風下に発生する現象で、このような気象環境下でのパラグライダー飛行は危険で行わないため、パラグライダーでの山岳波を用いることは基本ありません。
この4つの上昇気流の内、”風を読む!”シリーズの記事で扱う上昇気流はNo.1の斜面上昇風です。
次のステップでNo.2か3を扱えたらいいなと考えていますが、どうなるかは未定です・・・
グライダーでの長距離飛行は山岳波を使う!
秋から春にかけて北西風が東北地方の奥羽山脈(長さ約400km)に直角に当たることでまれに山岳波が発生し、グライダー(セールプレーン)はサーフィンのように奥羽山脈に沿って長距離飛行を行うそうで、グライダーの日本最長飛行距離記録はこの奥羽山脈沿いに発生した山岳波を用いて達成されているようです。
ちなみに、この山岳波を利用した飛行は高度5000m前後で行われており、おそらく外気温はマイナス20℃前後になるはずで、パイロットが外気にさらされているパラグライダーでの山岳波を用いる飛行は寒さの観点からも難しいと思います。
斜面上昇風は山岳などの斜面を駆け上がっていくわけですが、その風速は下の図1-2の矢印で示すように成分 a, b, c に分解することができます。
- 斜面上昇風のそのものの風速
- 斜面上昇風の上昇成分の風速
- 斜面上昇風の水平成分の風速

上記の中で、b.斜面上昇風の上昇成分の風速がパラグライダーの沈下率を上回れば、パラグライダーは高度を維持、またはさらに獲得できるということになります。
パラグライダーの沈下率
これまで”風を読む!”シリーズの記事で、山にぶつかって駆け上がる斜面上昇風の上昇成分(上昇気流の強さ)の計算結果を紹介していましたが、その上昇成分の強さがパラグライダーの飛行で高度獲得に使えるか否かは一切触れていませんでしたので、パラグライダーのEN規格各クラスの沈下率がどのくらいかを確認し、風の上昇成分が何[m/s]以上であれば上昇できるかを見てみたいと思います。
| EN | トリム速度 Trim speed [km/h] | トリム速度 Trim speed [m/s] | 滑空比 Glidetrim [-] | 沈下率 Sink rate [m/s] | 備考 Remarks |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 35 | 9.7 | 8.0 | 1.22 | EN-B比:トリム速度−1[km/h]、滑空比(L/D)−1(推定値) Based on EN-B minus 1 [km/h] and L/D minus 1 |
| B | 36 | 10.0 | 9.0 | 1.11 | 参考文献(ref.): [1]flybubble.com, “Speed to fly basics” |
| B+ | 36 | 10.0 | 9.5 | 1.05 | 同上 Same as above |
| C | 37 | 10.3 | 10.0 | 1.03 | 同上 Same as above |
| D | 37 | 10.3 | 10.5 | 0.98 | 同上 Same as above |
| CCC | 37 | 10.3 | 11.0 | 0.93 | 同上 Same as above |
Table 2-1: Sink Rate for Each EN Class
表2-1は、各ENクラスのトリム速度(対気速度)と滑空比、そして沈下率を表したものです。
EN BからCCCまでのトリム速度と滑空比は flybubble.com で紹介されていた値を参考にしました。
EN Aだけは参考になるデータを見つけられなかったので、トリム速度はEN Bの値から1[km/h]引いた値、滑空比はEN Bの値から 1 を引いた値として扱います。

ここで用語の整理をします。
- 沈下率
滑空中のパラグライダーが1秒当たり何メートルで降下するか?を表す鉛直方向速度の値で、単位は[m/s]とします。 - トリム速度
パラグライダーの操作を一切行わず、かつバランス(トリム)が取れた状態での対気速度のことで、図2-1中の「トリム速度」の矢印で示すように滑り落ちる状態の速度です。
トリム(Trim)は航空用語で、パイロットが操縦桿を手離しても、機体が姿勢や速度を保って飛行できるよう調整する機能(トリムタブなど)や、調整された状態を指すそうです。
下で説明する滑空比の計算を行う為、沈下率と単位を合わせトリム速度の単位も[m/s]とします。 - 滑空比
単位時間当たりに「水平方向に進む距離」に対する「沈下した距離」の比です。
(ここでは詳しく触れませんが揚抗比(L/D)と等しい値です)
ただ、パラグライダーで滑空比を扱う場合、一般的に「水平方向に進む距離」の代わりに「トリム速度」を用いるようですので、これにならい計算式は次のようになります。
ここで、なぜ、水平速度≒トリム速度 として扱っているのか?ですが、少なくともパラグライダーの場合、水平速度とトリム速度に誤差程度の差しかなく、かつ計算を単純化したいためだと思います。
試しにEN Aの滑空比 8、トリム速度9.7[m/s]を例に水平速度を計算し、トリム速度と比較します。
まず、図2-1の”“の角度を計算すると
(角度計算の為、表に記載の値より、小数点を2桁多く記載しています。)
次にこれを使って、水平速度を計算すると、
速度差分は0.08[m/s]で、トリム速度に対し0.8%の差しかなく、水平速度 ≒ トリム速度 として扱えます。
話題を表2-1に戻すと、各ENクラスの沈下率は0.93〜1.22 m/sと、いずれも「およそ 1.0 m/s 前後」の範囲に収まっています。 一方で、”風を読む!”シリーズの記事で紹介していくOpenFOAMによる山岳周りの風の計算結果には、以下のような原因で生じる計算誤差が含まれます。
- 地形メッシュが30mと粗い
- 地表の樹木などの影響を現時点では考慮していない
- 境界条件(計算モデルの外から入ってくる風)は完全に整った一様な流れと設定
したがって、解析結果の上昇気流の値を厳密(小数第一位まで)にクラス分けして比較しても、計算精度以上の細かさを議論することになってしまいます。
そこで本シリーズでは、議論を分かりやすくシンプルにするため、「各クラス共通で、沈下率は一律 1.0 [m/s]」 と仮定して話を進めます。
さらに、議論のシンプル化のため、「斜面上昇風の上昇成分が 1.5 m/s 以上あれば、パラグライダーは高度を維持、またはさらに獲得できる」 という目安でOpenFOAMによる計算結果を見ていきます。
通常、斜面上昇風を利用して上昇する”リッジソアリング”では、上昇風が強い箇所を行ったり来たりして高度を稼ぎます。
そして、パラグライダーは旋回を行うと、沈下率はトリム速度での飛行時より低下します。
パラグライダーの沈下率1.0[m/s]で、風の上昇成分が1.0[m/s]の場合、パラグライダーをよほど丁寧に飛行を行ったとしても旋回を行った時点で高度が下がってしまうので、パラグライダーでより高い高度を獲得するには風の上昇成分は1.0[m/s]よりも大きくなければなりません。 今回は沈下率1.0[m/s]に対して、風の上昇成分がキリのよい値でプラス0.5[m/s]あれば上昇できると仮定して進めることにしました。
計算結果の確認方法
OpenFOAMの計算結果をParaViewで可視化した図の見方を説明します。

図3-1は解析結果の例で、図中のA, Bに以下のような情報を示しています。
- 上から順に山の名前、風の方向と風速(計算条件)、表示している解析結果の説明
今回の例では、以下のようになっています。
Kogashi-yama(日本語入力ができないので、ローマ字表記)
wind: S at 3m/s
風向が南で、風速3m/sという初期条件で計算
Uz: 1.5m/s
Uzは風の上昇成分の風速を表していて、山の稜線に沿って緑いろに着色されているエリアが、Uz=1.5m/sのエリアです。 - 表示している解析結果の成分と値の大きさごとの色分け凡例
今回は上昇成分”Uz”ですが、風速そのものの場合は”U Magnitude”と表示します。
図3-1の”B”の0.0e+00は、e+00 = 1で、0.0 X 1 = 0の意味です。
参考文献
[1]flybubble.com, “Speed to fly basics” : https://flybubble.com/blogs/blog/speed-to-fly-basics
[2]国土地理院の地図データ
https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html
計算モデルの3D形状は国土地理院の3Dデータを用いています。
また、計算モデルにマッピングした空中写真も国土地理院のものを使用しています。
今回用いたオープンソースのソフトウェア
図3-1は、下記のオープンソース(フリー)のソフトウェアを利用しました。これらを利用することで、企業や大学で行うような計算や、その可視化を自宅で行うことができます。とてもすごい時代ですね!
- Blender
-
https://www.blender.org/
3Dモデリングなどを行える3DCGソフトウェア
ダウンロードした国土地理院の3Dデータ(stlファイル)を、OpenFOAM用の計算モデルへ変換するために使用 - OpenFOAM
-
①https://www.openfoam.com/ or
②https://openfoam.org/
流体や熱移動、化学反応などをコンピューターシミュレーションできるオープンソース熱流体解析ソフトウェア
このブログで紹介する山周辺の風の流れの計算は①を用いています。 - ParaView
-
https://www.paraview.org/
科学技術計算データを3Dで可視化することができるオープンソースのソフトウェア
OpenFoamの計算結果の可視化に使用しています。 - QGIS
-
https://www.qgis.org/ja/
地図の作成、分析ができるオープンソースの地理情報システム ソフトウェア
計算モデルの地表への空中写真のマッピング用データ作成に用いています。
