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風を読む!シリーズの計算モデルと計算方法をアップグレードします!!

わずかでも乱流が発生している範囲
目次

なぜ計算モデルをアップグレードしたいのか―立方体モデルの課題

 風を読む!シリーズは現(2026年7月)時点、下記の古賀志山と大平山の2つの記事を書いていますが、これらの記事に用いた計算モデルをアップグレードします!ちなみに、たまに「解析」という言葉が出てきますが、「解析」=「計算」です。


前回までの計算モデルは側面が東西南北を向く立方体でしたが、以下の3つの問題がありました。これらは互いに連鎖しており、根本的な解決には計算モデルそのものの見直しが必要と判断しました。

  1. 東西南北以外の風向きの計算で精度低下が懸念される
  2. 風向きごとに計算モデルを作り直す必要がある(No.1の問題対策)
  3. 風向きに合わせた複数モデルの計算結果間で精度にばらつきが生じる

 問題1について、まだ南風の計算しか行っていませんが、風は南風だけではありません。例えば南東の風を再現した計算も行いたいわけですが、今ある計算モデルに対して、南面と東面を流入面、北面と西面を流出面とすれば計算そのものはできてしまいます。しかし、風の流入側の南東の角と流出側の北西の角ではコンピューターが正確な計算をしにくくなります。この影響は角付近から一定の範囲に及び、さらにその影響度合いは風向きによって変化することが予想されます。

 問題2, 3については、問題1を避けるためには、計算モデルを風向きごとに作り直す必要があります。しかし風向きごとにモデルを同じサイズで作り直すと、立法体モデルの四隅に取り込まれる地形の範囲が風向きによって変化してしまいます。地形の取り込み範囲が変わるということは、境界条件が変わるということであり、つまり各風向きで異なる条件で計算することになってしまい、異なる風向き間での計算結果を適切に比較することが難しくなります。加えて、モデルの再構築には相応の作業時間もかかります。

図1-1 立方体計算モデルの問題点(古賀志山の立方体モデル)


 これら3つの問題を解決するために、今回から計算モデルの形状を立方体から「角」が無い円筒形にアップグレードすることにしました。円筒形であれば、風向き側の側面半分を流入面、残り半分を流出面として設定するだけで、モデルを作り直すことなく全方位の風を計算できます。計算モデルの「角」での計算精度低下もなく、どの風向きでも同じ条件で計算できるため、結果の比較もしやすくなります。

新しい円筒モデルの詳細

 地形データはいつも通り国土地理院のものを使い、円筒形モデルのモデル化範囲は、計算対象のエリアにある一番高い山を中心に半径5km、上空3000mまでをモデル化します。
例えば古賀志山エリアでは、古賀志山(582.8m)が一番高いので、計算領域はこの山頂を中心に半径5kmとし、円筒形モデルを作成しています。
計算領域は、計算対象の山のサイズに対しできるだけ大きいほうが計算精度は高まるのですが、計算に使用している私のパソコンのメモリーサイズやCPU性能から現実的な時間で計算できることが確認できている冒頭に示したサイズとしています。
この計算で確認したいのは、山にぶつかる風の上昇成分はどこで強まるのか?と、パラグライダーで飛んではいけない乱流領域(後程解説)はどこか?です。乱流について円筒の外で発生した乱流が計算対象の山まで届くようですと、この半径5kmの設定は狭すぎることになりますが、古賀志山と大平山の計算モデルに関しては各山の南側に乱流の発生源となる大きな山は無く、複数の風向きで計算を行った結果からとりあえず半径5kmで進めることにしました。図2-1に古賀志山を例に円筒計算モデルを示します。

図2-1 円筒計算モデル計算空間(図中目盛単位[m]

 計算モデルのMesh(計算格子)サイズは前回の大平山の計算モデルと同様に30mとし、地表から30mの高さまで5層に分割した境界層Meshを追加しています。この境界層Meshの高さと分割数は今後変更していくかもしれません。

図2-2 計算モデルのMesh(計算格子)

図2-2は左側が円筒モデルの北西側の1/4のMeshを表示した状態で、右側は中央部の拡大図です。右側の図を見ると山の表層近くのMeshが薄くなっていることがわかりますが、これが境界層Meshと言っている部分です。

 計算結果を確認する作業で、上昇成分の強い位置は計算モデルの山の形状からわかりますが、テイクオフやゲレンデとの位置関係は、計算モデルの山の形状だけだとわかりづらいことに不満を感じていました。そこで、計算モデルの地表に国土地理院の空中写真をマッピングすることで解決してみようと思います。

図2-3 計算モデルへの空中写真のマッピング結果

図2-3は古賀志山エリアの地形モデルに空中写真をマッピングした結果ですが、図の右側を見ていただくと例えばスカイパーク宇都宮のゲレンデの位置や、ちょっとわかりづらいですがテイクオフの位置を山の形状だけでなく、色から理解できるようになります。地形モデルの解像度が30mであることが制約となり、残念ながら空中写真を地形モデル側へ完璧にマッピングすることはできず、例えばテイクオフ(東)の西側にあるはずの旧AKAIWAパラグライダースクールのテイクオフは写真がつぶれて確認できない状態となっています。とはいえ、山の形状だけを頼りに風の上昇成分が強い場所を理解するよりは、見やすくなったと考えています。

さらに、「図」として計算結果を紹介する場合、一方方向からしか紹介できていなかったのですが、計算モデルを回転させ動画にしてみました。

動画2-1 計算モデルの回転動画

 この動画2-1は古賀志山に南風3m/sがふいた場合に生じる、風の上昇成分が0.5m/sの範囲を青色の膜で示しています。計算結果を回転させることで、3次元的にこの膜の広がり方がわかるので、計算結果の理解が深まると思います。
 ここで、左右にある赤色の”+“は酔い止めです。もし、動画を見て目が回るようなら、この”+”も意識して見ていただけると目が回る状態が緩和すると思います。

計算方法もアップグレードして乱流領域の可視化もはじめます!

 これまでの計算では、風の流れを「層流」、つまり乱れのない滑らかな流れとして計算していました。山の周りの風の大まかな流れを把握するには有効でしたが、この方法では大きな渦流は可視化できても、それ以外の乱流がどこにあるかを表現することができません。
 ここでいう乱流とは、風が不規則に乱れてざわついた状態のことで、身近な例では、川の流れが岩にぶつかって白く泡立つ様子がイメージに近いです。
 さらに「層流」の設定で山岳地形周りの風の流れの計算を行うと、山の風下に発生する渦が原因で計算精度が低下しているのではないかという疑念もありました。前回の古賀志山の計算結果で紹介した上昇成分1.0m/sの”X”で示した領域は計算精度の低下が原因ではないかと考えています。
 この山にぶつかった風の風下でのざわつき具合を見るために、今回からは乱流の分布も計算できる手法に切り替えました。 今回の計算では、この「風のざわつきの激しさ」を乱流エネルギー”k”という数値で表します。kが大きいほど風の乱れが激しく、パラグライダーにとってはグライダーが予期せぬ挙動をしやすいエリアを意味します。さらにこのkは、別の記事で詳しく説明する乱流強度の計算にも使われます。乱流強度はもともと工学分野で用いられる指標ですが、今後はこれをパラグライダー飛行の危険度を判断する物差しとして活用することを試みます。

図3-1 乱流エネルギーk=0.1[m^2/s^2]

動画3-1は、古賀志山に南風3m/sがぶつかった場合に発生する、乱流エネルギーk=0.1[m2/s2]の範囲を示しています。kの分布を見ても直接的に危険度度合いの議論はできないのですが、乱流つまり風のざわつきがある範囲のイメージとして紹介します。

注意点―アップグレードはしたけれど・・・

 計算モデルと計算方法をアップグレードすることで、より現実に近い風の流れを表現できるようになりました。
ただし、実際の山岳の風を完全に再現することはできません。
以前の計算モデル同様に、風の流れの計算にはいくつかの前提条件がありますので、結果を読み解くうえで参考にしてください。
 まず、計算モデルに流入する風は「完全に整った一様な流れ」として設定しています。
実際には、山の手前にも別の地形があり、高度によって風向きや風速が変化するため、完全に均一な風はありえません。しかし計算を成立させるための合理的な割り切りとして、乱れのない一様な流れを与えています。
 風向きや風速も固定値で設定します。例えば南風・風速3m/sを計算する場合、その条件を円筒の側面に境界条件として固定値で与えますが、実際の風にはムラや変動が常に伴っています。また、計算モデルの地表は山の地形を再現していますが、森林や建物は含まれていません。実際の地表面の凹凸や、木々による風の乱れは考慮されていない点にご注意ください。
 さらに、日差しの強い日中には地面が温められてサーマル(上昇熱気流)が発生しますが、今回の計算はあくまで上記の条件で、「風が山にぶつかった結果生じる流れ」のみを対象としています。サーマルの影響はこの計算では再現されません。イメージとしては、曇天で日射がなく、適度な風がある状態の一瞬をとらえた状況を再現しています。
 ですので、実際のパラグライダーの飛行では、この計算結果で乱流が無いことになっているエリアでも翼がつぶされて怖い思いをすることもあります!
「風の流れを読む!」シリーズでは、これらの前提を踏まえたうえで計算結果を見ていきます。

【注意事項(免責事項)】
今後、本ブログで紹介している計算結果やデータは、特定の条件に基づくシミュレーションであり、実際の風況や気象条件を完全に保証するものではありません。
パラグライダーの飛行可否や飛行中の安全判断は、常に現地での気象観察や各自の判断(自己責任)のもとで行ってください。本データのご利用により生じた事故や損害について、当方は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。

参考文献

国土地理院の地図データ

https://www.gsi.go.jp/tizu-kutyu.html
計算モデルの3D形状は国土地理院の3Dデータを用いています。
また、計算モデルにマッピングした空中写真も国土地理院のものを使用しています。

今回用いたオープンソースのソフトウェア

 今回の計算では下記のオープンソース(フリー)のソフトウェアを利用しました。これらを利用することで、企業や大学で行うような計算や、その可視化を自宅で行うことができます。とてもすごい時代ですね!

Blender

https://www.blender.org/
3Dモデリングなどを行える3DCGソフトウェア
ダウンロードした国土地理院の3Dデータ(stlファイル)を、OpenFOAM用の計算モデルへ変換するために使用

OpenFOAM

①https://www.openfoam.com/ or
②https://openfoam.org/
流体や熱移動、化学反応などをコンピューターシミュレーションできるオープンソース熱流体解析ソフトウェア
このブログで紹介する山周辺の風の流れの計算は①を用いています。

ParaView

https://www.paraview.org/
科学技術計算データを3Dで可視化することができるオープンソースのソフトウェア
OpenFoamの計算結果の可視化に使用しています。

QGIS

https://www.qgis.org/ja/
地図の作成、分析ができるオープンソースの地理情報システム ソフトウェア
計算モデルの地表への空中写真のマッピングようデータ作成に用いています。

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